Control of Enterotoxin Gene Expression in
Bacillus cereus F4430/73 Involves the Redox-Sensitive ResDE Signal Transduction System.
Duport C, Zigha A, Rosenfeld E, Schmitt P.
J Bacteriol. 2006 Sep;188(18):6640-51.
アブストラクト抄
B. cereusでの2コンポーネント調節系、ResDEの機能について調べた。
対象菌株は食中毒を起こす
B. cereus F4430/73
野生株、
resDE遺伝子破壊株、
resE遺伝子破壊株の3系統で、酸素の供給と細胞外酸化還元電位(ORP)を固定して、生育、グルコース代謝、ヘモリシンBLと非溶血性エンテロトキシンの発現を比較した。
その結果、好気条件~高ORPの嫌気条件で培養している間は生育と代謝は大きな影響を受けないが、低酸化還元電位になると野生株ではエンテロトキシンの生合成が活発になるのに対し、
resE遺伝子の破壊は
resDEの両方を破壊するよりも細胞にとって有害で、生育が制限され、重要な代謝遺伝子の制御が崩れて(deregulate)しまった。
より重要なことには、
resE遺伝子破壊株では調べたすべての条件下でエンテロトキシンがつくられなくなった。これに対し
resDE遺伝子破壊株では嫌気条件下で発現が減少したにとどまり、低ORPになるに従ってその度合いが強まったにすぎない。
このことから、ResDEシステムは発酵生育とエンテロトキシン発現の両方の調節に中心的な役割を果たしていて、
B. cereusにおいてこれが嫌気的酸化還元調節因子となっていると考えるべきである。またデータから、ResDEに依存したエンテロトキシン調節は、少なくとも部分的には多面発現性毒性遺伝子調節因子PlcRとは独立していることが分かる。
2コンポーネント調節系とは、教科書的には膜に結合したヒスチジンセンサーキナーゼとサイトプラズム応答レギュレータからなるシステム。前者が細胞外の信号を受け取り自らのヒスチジン残基をリン酸化したあと、後者をリン酸化あるいは脱リン酸化する。リン酸化された後者は転写因子として機能し、特定の遺伝子の発現のスイッチを入れる。
エンテロトキシンは細菌が分泌するタンパク質性毒素で、腸管に作用して下痢や嘔吐をもよおさせるものをいう。雪印の食中毒事件は黄色ブドウ球菌のエンテロトキシンが殺菌後も残留していて起こったもの。毒素の作用機作は不明らしい。ブドウ球菌エンテロトキシンの最近の研究についての日本語総説は
ここ。
要するに
B.cereusではResDEが外界の酸素濃度、または酸化還元電位をセンサーして、代謝を切り替えたり、毒素生産を始めたりさせる、大腸菌のFnrとかArcとかと似たような働きをしているということ。
B. cereusについては最近院内感染の事例があった。「セレウス菌」と呼ばれていたもの。芽胞を注射されたんじゃたまらん。